『詐欺師』達川と言えばデッドボールである。
この技術により、彼は『騙しの達っちゃん』『グラウンドの詐欺師』の異名をほしいままにした。
その名の通り、当たってもいないのにデッドボールをアピールするという珍プレーである。
もともとは、ある試合でユニフォームにかすっただけの球を本気半分でアピールしたのが始まりなのだが、それがデッドボールとして認められてしまったことに味を占め、以降この詐欺プレイに磨きをかけていった。
技の熟練期には、もはやある意味職人芸とも呼べる、鉄の技術を完成させていた。
大まかな流れはこんな感じである。
1.内角のきわどい球が入る
2.平然と一塁へ走り出す
3.もちろん審判に止められる
4.態度を豹変させ、鬼気迫る勢いでアピールする
ある程度彼の詐欺行為が定着しきった頃には、彼の詐欺行為を見て審判もうんざりしていたらしい。
しかし、いくら手が込んでいても同じ事を繰り返していれば通用しなくなるのは当たり前だったので、達川は常に工夫を重ねていた。
例えば、投球が当たって怯む振りをして、かすった左腕を右手で引っかいてさも傷が出来たかのようにアピールしたり、ある時には大袈裟に地面に倒れこむと、体の下で思いっきり手の甲をつねって腫れ上がらせるなどしていた。ここまでくれば詐欺行為も天晴れだが、もちろん達川はずる賢かったため、『東の詐欺師』市川和正のようにつねりすぎて本当に怪我をするような失態は決して晒さないよう、抜群の力加減で工作していたという。
しかしあんまりやりすぎたために、ある試合で本当にデッドボールになったときに審判に信用されず、当たった足の指の爪が割れて血が噴出している状態で出塁しなくてはならなくなるという「狼少年」さながらの憂き目にあったこともある。結局、足を引きずって一塁に進塁したが、この時ばかりは達川も参ったという。
ちなみに、日本シリーズでのデッドボール記録保持者。パ・リーグの審判は見慣れないからよく騙されたのだろうか。
デッドボールを連発していたことで、当時は同じく死球を喰らいまくっていた金森栄治と並んで称されていたが、詐欺行為を働いていた達川と違って金森はまともに喰らっていたため、現在は笑い話になっている。
なお他人のデッドボール判定に関しては非常に厳しい。